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VOL.6 『守りと誇りと情熱と』
投稿者 宮崎 和男(31歳・男)


『平成12年7月○○日午前○○時頃、○○海水浴場で、○○ ○○ちゃん(○才)が浮いているのを発見、10分後救急車で運ばれたが、意識不明の重体』

 夏になると毎日のように全国各地の海水浴場でこのような記事が目に飛び込んでくる。

 私は、新聞を見ながらついつい独り言のように叫ぶ。『親は、何をやってるんだ!!』私にも3歳と1歳半の子供がいます。誰に似たのか、かなりやんちゃ。だけどかわいい。そのお陰で毎日、有意義で楽しい家庭生活をおくっている。子は親の鏡。だからこそこういう言葉がでてしまいます。そこで

「じゃあ自分には、何が出来るんだ?」

と自問自答したときに「自分は、何も出来ない。事故に関して他人事だと思って、ただ、文句を言うだけじゃないか」と思いました。

  私の生まれ育った所は、自分で言うのもおこがましいですが、風光明媚で知られる越前・加賀海岸国定公園内の海水浴場で、国定公園内でも屈指の透明度を誇り、砂浜・岩場の両方で同時の海水浴が楽しめます。また、日本海に沈む夕日がとてもきれいで「夕日」の写真コンテストも行われる位です。冬は、日本海の荒波と強風で出来る「波の華」が見られ日本海側独特の観光が楽しめます。

 私も子供の頃には、真夏の「なすび」に負けない程真っ黒になり、母親が「晩ごはんよー。」と呼びに来るまで海水浴を楽しんだ記憶があります。

 しかし、こんなに素晴らしい海に誰も予想しない悲劇が起こったのです。

 平成9年1月7日午後、島根県沖で沈没したロシアタンカー「ナホトカ号」が三国町安島沖に漂着しました。私は、陸上自衛官として三国町に災害派遣され、重油の回収作業をしました。その中で感じたことは、災害ボランティアの人が数多く見受けられたことです。その方々の多くは、当たり前の話ですが、

「ボランティアに徹し見返りを望んではいない」。ただ単に「海がきれいになってほしい」

と、そう願う人達の気持ちが一つになって大きな力となっている。素晴らしい事だと感じました。その努力が報われて三国、若狭、そして福井県の海は、見事に以前の美しさを取り戻しました。

 その頃から私のボランティア精神という小さな火が心に灯り始めました。「自然を守りたい」「子供、お年寄りを守りたい」そんな気持ちが一杯で、どうしたらボランティア活動に参加出来るだろうかと気ばかり焦っていました。ちょうどその頃、日本赤十字社の水上安全法(ビーチの部)という講習会があることを知りました。「どんな事でもいい。まずは、動かないと」「やってみないと始まらない」と思い講習会に参加しました。

 講習会では、水の怖さ、CPR(心肺蘇生法)、人間がパニックを起こした時にどういう行動を取るのかなど参考になり、人命救助とは大変な事だと認識しました。参加した人は全員初めてで、互いに励まし努力して、ようやく「ライフセーバー」の道が開けました。講習会を通じ、たくさんの人に知り合えた事も、また大きな収穫でした。

  この夏、私はライフセーバー1年生としてガードの任務につくこととなりました。私の所属する三国ライフセービングクラブは、福井県北部に位置する三国サンセットビーチで活動し、社会人ボランティアと大学生で編成されています。

 最初は、何をしていいのかわからずためらいを感じていました。しかし、人命がかかわるとおのずと『何をしなければならないのか』がわかり始めてきました。海岸の清掃、パトロール、注意喚起(注意の呼びかけ)、マイク放送、地域住民との連携etc… 考える間もなく、やらなくてはならない事が次から次へてきました。そして、私にとって一番緊張したのが監視任務についたことでした。海水浴をしているすべての人の安全が私の目、双眼鏡に託されているからです。私の監視にライフセーバーの皆が集中する。私の情報によって皆が行動する。人を助けたいという一心で…。

  長い夏が終わった。私は、この夏で自分自身が確実に成長したのをひしひしと感じています。これも皆、あるライフセーバーとの出会いがきっかけでした。このクラブ発足の主軸と言っても過言ではありません。非常に感謝しています。

 「自然を守りたい」「人を助けたい」という一つの目的に向かってやり遂げる。仲間と一体となって一つのことをやる。そんな気持ちに誇りが持てるようになりました。その誇りを埃にしないためにも、人命救助に必要とする体力・知識を日頃から常に自己研磨していないと、いざと言うときには役に立たないということを実感し、どんな小さなことでも手を差し伸べられる人間でいたいと思います。私は、陸上自衛官です。人を守るのも、海を守るのも、国を守るのもそして家族を守るのも私にとってはすべて同じ気持ちなのです。

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